**日本の著作権は、著作者が亡くなった年の翌年から数えて70年で終わります。**保護期間が過ぎた作品は、誰でも自由に使えるようになります。
小説や詩を書いた人には、著作権があります。
そのため、第三者がその作品を無断で複製したり配ったりすることはできません。
ただし、「死後70年」という数字だけでは、実際の満了日は決まりません。日本には2018年の法改正と戦時加算という2つの事情があり、作家の没年によって境目がずれるためです。
本記事では、著作権が切れたあとに何ができるのかを解説した上で、正確な数え方、2018年の法改正、戦時加算、そして没年による3つの区分を紹介します。
著作権が切れた作品に対してできること
本章では、保護期間が終わった作品の扱いについて以下の項目を解説します。
- 利用者は複製・配布・朗読・翻案を自由に行える
- 著作者人格権は著作権とは別に扱われる
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
利用者は複製・配布・朗読・翻案を自由に行える
著作権が切れた作品について、利用者は複製、配布、朗読、翻案を自由に行えます。
保護期間が過ぎた作品には、利用者が許可を求める相手がいません。
そのため、利用者は事前に断りを入れる必要がありません。
この状態を、パブリックドメイン(日本語では公有)と呼びます。青空文庫の1万7千作品も、Project Gutenberg の7万5千点も、この仕組みによって公開されています。
著作者人格権は著作権とは別に扱われる
作者の名誉に関わる権利(著作者人格権)は、著作権とは別に扱われます。
ただし、複製や配布についていえば、保護期間が過ぎた作品を利用者は自由に使えます。青空文庫やこのサイトが古い小説を全文掲載できるのも、この仕組みによるものです。
70年目の12月31日という満了日
本章では、保護期間の正確な数え方を解説します。
亡くなった年の翌年からの起算
数え方には少し癖があります。権利者や利用者は亡くなった年の翌年の1月1日から数え始め、70年目の12月31日で保護期間が終わります。
たとえば1968年に亡くなった人であれば、保護期間は1969年から数えて2038年12月31日までです。年が明けた2039年1月1日から、その作品は公有になります。
作者の命日が何月何日であっても、保護期間は年末に切れます。
没年ごとの満了日
没年ごとの満了日は、以下のとおりです。
| 亡くなった年 | 保護期間の終わり | 公有になる日 |
|---|---|---|
| 1947年 | 1997年12月31日(当時は死後50年) | 1998年1月1日 |
| 1968年 | 2038年12月31日 | 2039年1月1日 |
| 1970年 | 2040年12月31日 | 2041年1月1日 |
| 1972年 | 2042年12月31日 | 2043年1月1日 |
三島由紀夫は1970年、川端康成は1972年に亡くなりました。表のとおり、三島の作品は2041年から、川端の作品は2043年から公有になります。
2018年まで続いた死後50年の保護期間
本章では、保護期間が延長された経緯について以下の項目を解説します。
- 2018年12月30日にTPP11協定の発効に伴って延長された
- 一度切れた著作権は元に戻らない
2018年12月30日にTPP11協定の発効に伴って延長された
古い解説記事には「死後50年」と書かれています。2018年より前の保護期間は、実際に死後50年でした。
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法の改正が2018年12月30日から施行され、保護期間は70年になりました。
文化庁は、改正の対象を以下のとおり説明しています。
原則として昭和43年(1968年)以降に亡くなった方の著作物の保護期間が延長されることとなります
延長前の様子は、青空文庫の日誌にも残っています。富田倫生は1997年12月30日の記事で、以下のとおり書いていました。
横光利一は、50年前の今日、他界している。つまり、本日をもって、彼の作品は著作権が切れる。
横光利一は、1947年12月30日に亡くなりました。当時の保護期間は死後50年だったため、横光の作品は50年目のその日に公有になり、青空文庫の対象になりました。
同じことが、いまは20年遅れて起こります1。
一度切れた著作権は元に戻らない
保護期間の延長が決まったとき、多くの人はすでに公有になった作品の扱いを心配しました。
文化庁のQ&Aには、以下のとおり書かれています。
改正法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されます
つまり、2018年12月29日の時点で公有だった作品は、いまも公有のままです。
青空文庫が1997年から公開してきた1万7千作品は、この改正によって保護期間が引き上げられることはありませんでした2。
米国とオーストラリアで3,794日になる戦時加算
本章では、日本にだけある戦時加算について解説します。
サンフランシスコ平和条約に基づく上乗せ
戦時加算は、日本にだけある規則です。サンフランシスコ平和条約に基づき、連合国と連合国民が戦前・戦中に取得した著作権には、戦争の期間の日数が上乗せされます。
文化庁は、加算する日数を以下のとおり説明しています。
通常の保護期間に、昭和16(1941)年12月8日(開戦時)から当該国とのサンフランシスコ平和条約発効の前日までの期間の日数(例えば、米国やオーストラリアについては3794日)
3,794日は約10年5か月にあたります。加算される日数は、国ごとに異なります2。
戦後に発表された作品に戦時加算は関係しない
戦時加算は、1941年12月8日の時点で連合国民が権利を持っていた著作物にだけ掛かります。
そのため、戦後に発表された作品に戦時加算は関係しません。
利用者が Project Gutenberg の本を日本で配る場合は、ここで差が出ます。米国で公有の本が日本ではまだ保護されている理由は、保護期間の長さの違いと、この上乗せの2つです。
没年が1年違うと公有になる年が20年変わる
死後70年、いったん切れた保護は戻らないこと、戦時加算の3つを重ねると、作家の没年による区分は3つに分かれます。
| 没年 | 状態 | 理由 |
|---|---|---|
| 1957年以前 | ほぼ確実に公有 | 戦時加算を足しても、2018年12月30日より前に消滅している |
| 1958年から1967年 | 1件ずつ見ないと決まらない | 戦時加算が掛からなければ消滅している |
| 1968年以降 | 原則としてまだ保護されている | 文化庁のQ&Aが延長の対象として挙げている範囲 |
1957年没の作家は延長の対象にならない
1957年という境目は、計算で確かめられます。
1957年に亡くなった作家であれば、死後50年は2007年末に終わります。そこへ戦時加算の3,794日を足すと、この作家の保護期間は2018年5月ごろに満了します。
この満了日は、改正法の施行日である2018年12月30日より前です。施行の前日にはもう消滅しているため、この作家の作品は延長の対象になりません。
1958年没の作家は延長の対象になる
一方、1958年に亡くなった作家であれば、戦時加算を足した満了は2019年5月ごろになります。
施行の前日にはまだ消滅していないため、この作家には70年のほうが適用されます。この作家の作品は、2039年ごろに公有になります。
同じ時代に書かれた似たような作品であっても、作者の亡くなった年が1年違うだけで、読者は片方を読めて片方を読めません。
判定が難しくなる2つの条件
本章では、利用者が実際に判定を行う際に問題になる以下の項目を解説します。
- 訳者の没年が記録されていない本がある
- 誰の没年を数えるかで結論が変わる
訳者の没年が記録されていない本がある
yodaka では Project Gutenberg の目録を通して、1作品ずつ判定しています。判定の答えは以下の4つです。
- 確実に配れるもの
- 1件ずつ見ないと決まらないもの
- まだ保護されているもの
- 判定できないもの
4つめは、関わった人の誰かに没年が記録されていない作品です。生年しか分かっていない翻訳者は珍しくありません。
利用者がここを「たぶん大丈夫」で通すと、誤った判定が混ざったまま気づけなくなります。そのため yodaka は、分からないものを分からないままにして、配信の対象から外しています3。
誰の没年を数えるかで結論が変わる
利用者が誰の没年を見るかによって、結論は変わります。
yodaka は訳者と編者を数えます。原著が何世紀前のものであっても、訳文と編纂には別の著作権が生まれるためです。
一方、yodaka は挿絵画家を数えません。取り込みのときに画像とキャプションを除外しているため、挿絵画家の仕事が配信物に含まれないからです。
yodaka が挿絵画家を数えた場合、配れるはずの本まで9,000件以上が除外されます3。
ここに書いた区分は、安全側に寄せるための目安です。戦時加算が掛かるかどうかは「1941年12月8日の時点で連合国民が権利を持っていたか」という作品ごとの事実によって決まるため、生没年だけでは判断できません。
なお、この記事は法律の助言ではありません。利用者が実際に作品を配る場合は、別途確認が必要です。
次にまとまって公有になる2039年1月1日
1967年までに亡くなった作家の作品は、すでに公有です。1968年に亡くなった人たちの作品は、2039年1月1日にまとまって公有になります。
文化庁がQ&Aで例に挙げている藤田嗣治も、この日から公有になります2。
青空文庫の1万7千作品は当分動かない
そのため、青空文庫の1万7千という数は、当分のあいだ大きく増えません。この数は、まだ電子化されていない古い作品を誰かが入力したぶんだけ増えます。
富田倫生も、1997年の日誌で「工作員としての時間を作れそうになったときには」と、この入力を呼びかけていました1。
まとめ
日本の著作権は、著作者が亡くなった年の翌年から数えて70年で終わります。保護期間は、70年目の12月31日に切れます。
ただし、2018年12月30日に保護期間が50年から70年へ延長されたため、境目は1967年と1968年のあいだにあります。また、2018年12月29日の時点で公有だった作品は、いまも公有のままです。
さらに、日本には戦時加算という上乗せがあります。この3つが重なるため、作家の没年による区分は1957年以前、1958年から1967年、1968年以降の3つに分かれます。
利用者が実際に作品を配る場合は、没年から判定した上で、1件ずつ確認しましょう。
この記事が、著作権の保護期間についての理解を深める一助になれば幸いです。
Footnotes
-
青空文庫「1997年のそらもよう」1997年12月30日の記事。署名は「(倫)」で、富田倫生によります。 ↩ ↩2
-
文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」(平成30年12月、文化庁著作権課作成)の問3・問4・問7。施行については同庁「平成30年12月30日施行 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について」。 ↩ ↩2 ↩3
-
没年による区分と、訳者・編者を数えて挿絵画家を数えないという扱いは、yodaka の取り込み処理で実際に使っている判定です。区分の境目である1957年と1967年も、そこで定めた値です。 ↩ ↩2
