パブリックドメインとは、著作権の保護期間が終わり、誰の許可がなくても自由に利用できる状態のことです。日本語では「公有」とも呼ばれます。
パブリックドメインの状態にある本は、全文を無料で読めます。夏目漱石の『坊っちゃん』も、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』も、この状態にある作品です。
一方、「無料で全文が読めると聞くと、海賊版なのではないか」と不安に思う方もいるでしょう。
また、コンテンツを制作する立場であれば、「自分が使いたい作品は本当に保護期間が終わっているのか」という点についても、確認する必要があります。
本記事では、パブリックドメインの本を公開している2つのサイトについて解説した上で、日本の著作権が切れるタイミングや、作品を再配布するときの注意点を紹介します。
パブリックドメインの本とはどのようなものか
本章では、パブリックドメインに関する以下の項目について解説します。
- パブリックドメインは著作権の保護期間が終わった状態を指す
- パブリックドメインの作品は複製・配布・朗読・翻案ができる
- パブリックドメインのサイトと海賊版のサイトは仕組みが異なる
以下、それぞれ詳しく見ていきましょう。
パブリックドメインは著作権の保護期間が終わった状態を指す
小説や詩を書いた人には、著作権があります。
そのため、第三者が作品を無断で複製したり配ったりすることはできません。
ただし、著作権には期限があります。一定の年数が過ぎると、著作権は消えます。
著作権が消えた作品には、利用者が許可を求める相手がいません。
この状態が、パブリックドメイン(公有)です。
パブリックドメインの作品は複製・配布・朗読・翻案ができる
利用者は、パブリックドメインの作品を自由に複製・配布・朗読・翻案できます。許可を求める相手がいないため、利用者は事前に断りを入れる必要がありません。
青空文庫やこのサイトが古い小説を全文掲載できるのも、この仕組みによるものです。
なお、作者の名誉に関わる権利(著作者人格権)は、著作権とは別に扱われます。
ただし、複製や配布についていえば、保護期間が過ぎた作品を利用者は自由に使えます。
パブリックドメインのサイトと海賊版のサイトは仕組みが異なる
海賊版のサイトと違い、パブリックドメインの本を集めたサイトには、権利の残っていない作品だけが並んでいます。
そのため、読者は夏目漱石の作品を読めますが、いま書店に並んでいる小説を読むことはできません。
パブリックドメインの本を読める2つのサイト
日本語の本も英語の本も、パブリックドメインの作品であれば、ほとんどは以下の2つのサイトのどちらかにあります。
| 青空文庫 | Project Gutenberg | |
|---|---|---|
| 言語 | 日本語 | 英語が中心 |
| 点数 | 17,837作品 | 7万5千点以上 |
| 始まった年 | 1997年 | 1971年 |
| 読める例 | 坊っちゃん、羅生門、銀河鉄道の夜 | Pride and Prejudice、Moby Dick |
| 作っている人 | ボランティア(工作員) | ボランティアと Distributed Proofreaders |
本章では、この2つのサイトについて解説します。
青空文庫は日本語の本を17,837作品公開している
青空文庫は、著作権の切れた日本語の本を無料で公開しているウェブサイトです。
青空文庫は1997年から続いており、2026年8月の時点で17,837作品を収録しています1。
読者が読める作品の例は、夏目漱石の『坊っちゃん』、芥川龍之介の『羅生門』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』などです。
「文庫」という名前が付いていますが、青空文庫は建物も紙の本も持ちません。
青空文庫は、ボランティアが本を1冊ずつ手で入力したデータの集まりです2。
Project Gutenberg は英語の本を7万5千点公開している
Project Gutenberg は、英語圏で青空文庫と同じ役割を果たしているウェブサイトです。同サイトは1971年に始まり、電子図書館としては世界でもっとも古い部類に入ります。
同サイトは、Pride and Prejudice(『高慢と偏見』)や Moby Dick(『白鯨』)といった英語の古典を中心に公開しています。
点数は7万5千点を超えます3。
なお、Project Gutenberg にはフランス語やドイツ語、フィンランド語の本も入っていますが、点数はずっと少なめです。
読者が日本語の作品を探す場合は、青空文庫のほうが向いています。
どちらも登録不要の2つのサイト
読者は、どちらのサイトでも登録をせずに本を読めます。料金もかかりません。
読み方は2とおりです。
読者はブラウザでそのまま読めるほか、ファイルをダウンロードして手元の電子書籍アプリに入れることもできます。
なお、青空文庫の XHTML 版と Project Gutenberg のブラウザ版は、どちらも1作品が1ページに収まっています。そのため、読者は途中でしおりを挟めません。
読者が長編を読み通す場合は、ファイルをダウンロードして電子書籍アプリに入れるほうが向いています。
それぞれの詳しい読み方は、青空文庫とは何かとProject Gutenberg とは何かで解説しています。
青空文庫で読める作家と読めない作家
本章では、青空文庫の収録範囲について、以下の項目を解説します。
- 没年が古い作家から順に公有になる
- 1968年以降に亡くなった作家の作品は読めない
- 17,837作品のうち488作品は著作権が残っている
没年が古い作家から順に公有になる
青空文庫に収録されている代表的な作家は、以下のとおりです。
| 作家 | 没年 | 青空文庫で読めるもの(例) |
|---|---|---|
| 樋口一葉 | 1896年 | たけくらべ |
| 夏目漱石 | 1916年 | 坊っちゃん、吾輩は猫である、こころ |
| 森鴎外 | 1922年 | 高瀬舟、舞姫 |
| 芥川龍之介 | 1927年 | 羅生門、蜘蛛の糸 |
| 宮沢賢治 | 1933年 | 銀河鉄道の夜、注文の多い料理店 |
| 中島敦 | 1942年 | 山月記、李陵 |
| 横光利一 | 1947年 | 機械、春は馬車に乗って |
| 太宰治 | 1948年 | 走れメロス、人間失格 |
表のとおり、作家が亡くなった年が古いほど、その作品は早く公有になります。
1968年以降に亡くなった作家の作品は読めない
三島由紀夫は1970年に亡くなったため、その作品は2040年の末まで保護されます。川端康成は1972年に亡くなったため、その作品は2042年の末まで保護されます。
読者がこの2人の作品を青空文庫で探しても、見つけることはできません。
境目が1967年と1968年のあいだにある理由は、2018年の法改正にあります。
この点は、次の章で詳しく解説します。
17,837作品のうち488作品は著作権が残っている
収録作品の内訳は、以下のとおりです。
- 著作権なし……17,349作品
- 著作権あり(著作権者が公開を許諾したもの)……488作品
後者の488作品については、作者や遺族が利用の条件を決めています。
そのため、利用者が使ってよい範囲は作品ごとに異なります。
利用者がこの488作品を使う場合は、図書カードか作品ファイルに書かれた条件を1作品ずつ確認しましょう。
日本の著作権が切れるタイミング
本章では、日本の著作権の保護期間について、以下の項目を解説します。
- 著作権は亡くなった年の翌年から70年で切れる
- 70年目の12月31日という満了日
- 2018年12月30日に保護期間が50年から70年へ延長された
- 一度切れた著作権は元に戻らない
- 日本には戦時加算という上乗せの仕組みがある
- 没年が1年違うと公有になる年が20年変わる
まずは、原則となる数え方から確認しましょう。
著作権は亡くなった年の翌年から70年で切れる
日本の著作権は、書いた人が亡くなった年の翌年から数えて70年で終わります。
夏目漱石、芥川龍之介、太宰治は、この計算ですでに保護期間を過ぎています。
一方、三島由紀夫の作品は2041年から、川端康成の作品は2043年から公有になります。
70年目の12月31日という満了日
数え方には少し癖があります。権利者や利用者は亡くなった年の翌年の1月1日から数え始め、70年目の12月31日で保護期間が終わります。
たとえば1968年に亡くなった人であれば、権利者の保護期間は1969年から数えて2038年12月31日までです。年が明けた2039年1月1日から、その作品は公有になります。
作者の命日が何月何日であっても、保護期間は年末に切れます。具体例は以下のとおりです。
| 亡くなった年 | 保護期間の終わり | 公有になる日 |
|---|---|---|
| 1947年 | 1997年12月31日(当時は死後50年) | 1998年1月1日 |
| 1968年 | 2038年12月31日 | 2039年1月1日 |
| 1970年 | 2040年12月31日 | 2041年1月1日 |
| 1972年 | 2042年12月31日 | 2043年1月1日 |
2018年12月30日に保護期間が50年から70年へ延長された
古い解説記事には「死後50年」と書かれています。2018年より前の保護期間は、実際に死後50年でした。
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法の改正が2018年12月30日から施行され、保護期間は70年になりました。文化庁は改正の対象を以下のとおり説明しています。
原則として昭和43年(1968年)以降に亡くなった方の著作物の保護期間が延長されることとなります
延長前の様子は、青空文庫の日誌にも残っています。富田倫生は1997年12月30日の記事で、以下のとおり書いていました。
横光利一は、50年前の今日、他界している。つまり、本日をもって、彼の作品は著作権が切れる。
横光利一は、1947年12月30日に亡くなりました。当時の保護期間は死後50年だったため、横光の作品は50年目のその日に公有になりました。
同じことが、いまは20年遅れて起こります2。
一度切れた著作権は元に戻らない
保護期間の延長が決まったとき、多くの人はすでに公有になった作品の扱いを心配しました。文化庁のQ&Aには、以下のとおり書かれています。
改正法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されます
つまり、2018年12月29日の時点で公有だった作品は、いまも公有のままです。
青空文庫が1997年から公開してきた1万7千作品は、この改正によって保護期間が引き上げられることはありませんでした4。
日本には戦時加算という上乗せの仕組みがある
戦時加算は、日本にだけある規則です。サンフランシスコ平和条約に基づき、連合国と連合国民が戦前・戦中に取得した著作権には、戦争の期間の日数が上乗せされます。
文化庁は、加算する日数を以下のとおり説明しています。
通常の保護期間に、昭和16(1941)年12月8日(開戦時)から当該国とのサンフランシスコ平和条約発効の前日までの期間の日数(例えば、米国やオーストラリアについては3794日)
3,794日は約10年5か月にあたります。加算される日数は、国ごとに異なります。
なお、戦時加算は、1941年12月8日の時点で連合国民が権利を持っていた著作物にだけ掛かります。
そのため、戦後に発表された作品に戦時加算は関係しません4。
没年が1年違うと公有になる年が20年変わる
死後70年、いったん切れた保護は戻らないこと、戦時加算の3つを重ねると、作家の没年による区分は3つに分かれます。
| 没年 | 状態 | 理由 |
|---|---|---|
| 1957年以前 | ほぼ確実に公有 | 戦時加算を足しても、2018年12月30日より前に消滅している |
| 1958年から1967年 | 1件ずつ見ないと決まらない | 戦時加算が掛からなければ消滅している |
| 1968年以降 | 原則としてまだ保護されている | 文化庁のQ&Aが延長の対象として挙げている範囲 |
1957年という境目は、計算で確かめられます。1957年に亡くなった作家であれば、死後50年は2007年末に終わります。そこへ戦時加算の3,794日を足すと、この作家の保護期間は2018年5月ごろに満了します。
この満了日は、改正法の施行日である2018年12月30日より前です。
施行の前日にはもう消滅しているため、この作家の作品は延長の対象になりません。
一方、1958年に亡くなった作家であれば、戦時加算を足した満了は2019年5月ごろになります。施行の前日にはまだ消滅していないため、この作家には70年のほうが適用されます。
この作家の作品は、2039年ごろに公有になります。
同じ時代に書かれた似たような作品であっても、作者の亡くなった年が1年違うだけで、読者は片方を読めて片方を読めません。
より詳しい数え方は、著作権はいつ切れるのかで解説しています。
パブリックドメインの本を支えている入力と校正
保護期間が終わっただけでは、本はサイトに現れません。本章では、公開までに必要な以下の作業について解説します。
- ボランティアが1冊ずつ手で入力している
- 青空文庫は入力と校正の担当者を「工作員」と呼ぶ
- Project Gutenberg は Distributed Proofreaders が校正している
- 2つのサイトを始めた人物
ボランティアが1冊ずつ手で入力している
パブリックドメインの本は、ボランティアが1冊ずつ手で入力したデータとして公開されています。
作業の分担は2つに分かれます。誰かが底本を見ながら本文を打ち込み、別の誰かが原本と突き合わせて誤りを直します。
そのため、青空文庫の17,837作品という数は、ボランティアが入力を終えた本の数を表しています。
青空文庫は入力と校正の担当者を「工作員」と呼ぶ
青空文庫は、入力と校正を担当する人を「工作員」と呼びます。
作業の手引きになる「青空文庫工作員マニュアル」は、1997年12月16日にできました。
青空文庫は、開設の年のうちに作業の形を決めていました2。
Project Gutenberg は Distributed Proofreaders が校正している
Distributed Proofreaders は、2000年にチャールズ・フランクスが立ち上げた仕組みです。
この仕組みは本をページ単位に切り、複数の人が同時に別々のページを校正できるようにしました。
同組織は2002年に Project Gutenberg の公式サイトになり、2006年には別法人になりました。同組織が校正して納めた点数は51,120点です5。
Distributed Proofreaders の考え方は、入力と校正を分ける青空文庫と同じです。
2つのサイトを始めた人物
青空文庫の呼びかけ人は、富田倫生です。富田は1952年4月20日に生まれ、2013年8月16日に亡くなりました。
富田の没後、葬儀の日に集まった数人の相談から「本の未来基金」が生まれました。集まった寄付のうち500万円が、まず青空文庫へ渡っています。
青空文庫の運営は、いまも寄付とボランティアで続いています6。
一方、Project Gutenberg の創始者はマイケル・ハートです。ハートはイリノイ大学の材料研究所にあったメインフレーム(Xerox Sigma V)の利用権を渡され、1971年に最初の1冊として「アメリカ独立宣言」を打ち込みました。
当時、パソコンはまだありません。Web もありません。
ハートは、それでも本文を文字データにして誰でも取り出せる形にしておく価値がある、と判断していました7。
パブリックドメインの本を再配布するときの注意点
利用者が自分のサイトやアプリで作品を配り直す場合は、以下の4点を確認しましょう。
- 青空文庫の取り扱い基準
- Project Gutenberg の商標の扱い
- 米国と日本で判断が異なる点
- 没年が記録されていない作品の扱い
青空文庫の取り扱い基準
青空文庫は、著作権の切れた作品について以下のとおり定めています。
ファイルは、有償・無償であるかを問わず、自由に複製・再配布・共有することができます。
利用者は、実演や口述、翻案も自由に行えます。出典の表示について、青空文庫は「これらの情報が削除されないことを希望します」という書き方をしており、義務にはしていません8。
Project Gutenberg の商標の扱い
Project Gutenberg は、名前の使い方に条件を置いています。同サイトは、以下のとおり書いています。
you can freely redistribute any eBook, anywhere, any time, with or without the “Project Gutenberg” trademark included
ファイルの先頭と末尾には、Project Gutenberg の説明文(ヘッダとフッタ)が入っています。
利用者がこれを外して名前を使わなければ、どこへでも自由に再配布できます。
ただし、利用者が名前を使う場合の条件は以下のとおりです。
If you use the Project Gutenberg name, which is a registered trademark, you need to pay royalties for any commercial use
無料の本に有料の条件が付いているように見えますが、この条件は登録商標の使い方にだけ掛かります。本文は自由に扱えます9。
米国と日本で判断が異なる点
米国と日本の判断の違いは、利用者が Project Gutenberg を日本から使う場合にもっとも注意すべき点です。同サイトは以下のとおり明記しています。
Not all items that are public domain in the US are public domain in other countries, and vice versa.
この一文は、米国でパブリックドメインの作品が他の国でもそうとは限らず、その逆もある、という意味です。同サイトの「著作権が切れている」という判断は、米国の法律に照らしたものです。
そのため、利用者が日本で作品を配り直す場合は、日本の規則で確認し直す必要があります。同サイトは「米国外で運用するなら専門家の助言を得るように」とも書いています。
一方、青空文庫は作品ごとに著作権の状態を記録しています。
そのため、利用者が国内で配るだけであれば、その記録を読めば済みます。
没年が記録されていない作品の扱い
Project Gutenberg の目録には、著者や訳者の生没年だけが入っており、著作権の状態は入っていません。
そのため、利用者は日本の規則を自分で当てはめることになります。
ここでは、関わった人の誰かに没年が記録されていない作品が問題になります。生年しか分かっていない翻訳者は珍しくありません。
yodaka では、判定の答えを4つに分けています。確実に配れるもの、1件ずつ見ないと決まらないもの、まだ保護されているもの、そして判定できないものです。
判定できないものを「たぶん大丈夫」で通すと、誤った判定が混ざったまま気づけなくなります。
そのため yodaka は、分からないものを分からないままにして、配信の対象から外しています10。
生没年からの判定は、安全側に寄せるための目安です。戦時加算が掛かるかどうかは「1941年12月8日の時点で連合国民が権利を持っていたか」という作品ごとの事実によって決まります。
なお、この記事は法律の助言ではありません。利用者が実際に作品を配る場合は、別途確認が必要です。
古い作品を読むときに知っておきたいこと
本章では、読者が古い作品を読む際に知っておきたい以下の項目について解説します。
- 青空文庫の作品の38.9%は旧仮名で書かれている
- 差別的な表現が書き換えられずに残っている
- 底本がファイルの末尾に明記されている
青空文庫の作品の38.9%は旧仮名で書かれている
青空文庫の収録作品のうち、4割近くは旧仮名で書かれています。
内訳は新字旧仮名が4,566件、旧字旧仮名が2,181件で、合計6,747件です。この6,747件は、収録作品全体の38.9%にあたります。
読者が「言つた」「てふてふ」のような表記に慣れていないと、これらの作品は読みにくく感じます。
読者が読みやすさを優先する場合は、新字新仮名の作品を選びましょう。
表記の種類は、作品ごとの図書カードに「新字新仮名」「新字旧仮名」と書かれています11。
差別的な表現が書き換えられずに残っている
百年前の小説には、現在なら差別と受け取られる言葉が出てきます。
青空文庫はこれらの言葉を書き換えずに公開する方針を取っており、作品によっては注記を付けています。
注記が付いている作品は4,634作品で、全体の26.7%にあたります。『吾輩は猫である』『おくのほそ道』『源氏物語』も、この中に含まれます。
yodaka でも書き換えは行っていません。yodaka が書き換えてしまうと、その時代に何がどう書かれていたのかが残らないためです。
また、4作品に1回出る警告は、警告として機能しません。yodaka がこれを理由に作品を非表示にすると、読者は松尾芭蕉や夏目漱石の作品を読めなくなります。
そのため yodaka は、最初に1回だけ全体について断り、作品ページには青空文庫の言葉をそのまま引用する形にしています。
底本がファイルの末尾に明記されている
青空文庫のファイルには、工作員がどの出版社のどの版から入力したかが、末尾に書かれています。
読者や利用者が作品を引用する場合は、この底本の記載を確認しましょう。
パブリックドメインの本のファイルを自分で扱う場合
読者が本を読むだけであれば、ここから先の内容は必要ありません。利用者がプログラムでファイルを処理する場合は、以下の5点を押さえておきましょう。
- 青空文庫の原本にあたるテキスト版
- 青空文庫の注記は3種類を覚えれば足りる
- 青空文庫の外字は JIS X 0213 の面区点で指定される
- Project Gutenberg の目録は RDF から読む
- pg-header と pg-footer に挟まれた Project Gutenberg の本文
青空文庫の原本にあたるテキスト版
青空文庫の図書カードには、テキスト版と XHTML 版が並びます。ただし、原本はテキスト版のほうです。
工作員はテキスト版だけを手で作り、XHTML 版は青空文庫がプログラムで変換しています。青空文庫の注記一覧には、以下のとおり書かれています。
青空文庫では、テキスト版をプログラムで変換して、XHTML 版を作っています。そのプログラムは、ここにまとめた書き方を前提に動作します。
つまり、青空文庫で表現できる範囲は、テキスト版の書き方までです12。
青空文庫の注記は3種類を覚えれば足りる
青空文庫の記法は、以下の3つを覚えれば大半に対応できます。
- **ルビ。**工作員は
羅生門《らしょうもん》のように、親文字のうしろに《》で付けます。 - **ルビの始点。**工作員は、どこからルビが掛かるかを示したいときに
|で始まりを指定します。 - **その他の指示。**工作員は、それ以外の指示をすべて
[#と]で囲みます。[#改ページ][#「あれ」に傍点]のような形です。
青空文庫の注記一覧には、字下げ、見出しのレベル、返り点、傍点、キャプションまで並んでいます。これらは、縦組みの本の組み方を平文の中に残すための決まりです12。
青空文庫の外字は JIS X 0213 の面区点で指定される
常用漢字の範囲に入らない字を、青空文庫は JIS X 0213 の面区点で指定しています。XHTML 版では、この指定が画像の alt 属性に入ります。
対応表のキーは 3-746D のような形です。面1が 3-、面2が 4- にあたり、区点にそれぞれ 0x20 を足して16進2桁ずつ並べたものになっています。
yodaka はこの方法で、17,342作品の外字をすべて Unicode に変換できました11。
alt の末尾には、底本のどのページの字かという参照(88-上-7 など)が付いてきます。処理が末尾から数字を探すと、このページ番号を面区点として読んでしまいます。yodaka は「第N水準」という語を先に探す処理へ変えて、この問題を直しました。
なお、青空文庫のファイル形式は25年以上のあいだに変わってきました。本文の目印である .main_text を持たない古い形式のファイルが142件(0.8%)残っています。
利用者は、これらの形式を揃えてから同じ処理へ渡す必要があります11。
Project Gutenberg の目録は RDF から読む
Project Gutenberg は、全作品の目録を CSV と RDF の2つの形式で配っています。CSV のほうが小さくて扱いやすそうに見えますが、利用者が権利を判定する用途には向きません。
CSV の Authors 欄は、以下のような1本の文字列になっているためです。
Balzac, Honoré de, 1799-1850; Marriage, Ellen, 1865-1946 [Translator]
利用者は、役割と生没年を正規表現で分解することになります。名前にセミコロンやハイフンが含まれていれば、その処理は壊れます。
一方、RDF であれば pgterms:agent に生年と没年が別々の項目として入っています。役割は要素名で区別され、dcterms:creator が著者、marcrel:trl が訳者、marcrel:edt が編者にあたります。
RDF は rdf-files.tar.bz2 という120MBのアーカイブとして配布されており、利用者が展開すると79,009ファイルになります13。
pg-header と pg-footer に挟まれた Project Gutenberg の本文
yodaka が調べた30冊すべてに、id="pg-header" と id="pg-footer" がありました。本文は、この2つに挟まれた範囲です。
そのため、利用者はヘッダとフッタの除去と本文の切り出しを1回の操作で終えられます。目印としては、青空文庫より確実です。
ただし、Project Gutenberg には共通の class 名の語彙がありません。実際に出てきたものを並べると tei-p pnext pagenum poem chapter drama dropcap i0 t3 などがあり、利用者は決まった名前を当てにできません。
yodaka はタグで抽出し、class を小さな除外リストとしてだけ使っています13。
パブリックドメインの本はこれから増えるのか
本章では、今後の見通しについて以下の項目を解説します。
- 次にまとまって公有になる2039年1月1日
- 誰かが入力したぶんだけの増加
次にまとまって公有になる2039年1月1日
1967年までに亡くなった作家の作品は、すでに出そろっています。1968年に亡くなった人たちの作品は、2039年1月1日にまとまって公有になります。
文化庁がQ&Aで例に挙げている藤田嗣治も、この日から公有になります4。
誰かが入力したぶんだけの増加
そのため、青空文庫の17,837作品という数は、当分のあいだ大きく動きません。この数は、まだ電子化されていない古い作品を誰かが入力したぶんだけ増えます。
富田倫生も、1997年の日誌で「工作員としての時間を作れそうになったときには」と、この入力を呼びかけていました2。
まとめ
パブリックドメインの本とは、著作権の保護期間が終わり、読者が誰の許可もなく自由に読める状態になった作品のことです。読者は、日本語の作品を青空文庫で、英語の作品を Project Gutenberg で読めます。
日本の著作権は、書いた人が亡くなった年の翌年から数えて70年で終わります。ただし、2018年の法改正と日本にだけある戦時加算が重なるため、実際の境目は作家の没年によって細かく分かれます。
また、保護期間が終わっただけでは本は公開されません。ボランティアが1冊ずつ入力し、校正した結果として、現在の点数があります。
利用者が作品を配り直す場合は、青空文庫の取り扱い基準、Project Gutenberg の商標の扱い、そして米国と日本の判断の違いに注意しましょう。
この記事が、パブリックドメインの本についての理解を深める一助になれば幸いです。
Footnotes
-
青空文庫トップページの「収録作品数:17837(著作権なし:17349、著作権あり:488)」。2026年8月11日に確認しました。 ↩
-
青空文庫「1997年のそらもよう」。日誌の最初の記事は1997年2月20日、工作員マニュアルの完成は同年12月16日の記事にあります。引用した12月30日の記事の署名は「(倫)」です。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Project Gutenberg, About。「an online library of more than 75,000 free eBooks」。2026年8月11日に確認しました。 ↩
-
文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」(平成30年12月、文化庁著作権課作成)の問3・問4・問7。施行については同庁「平成30年12月30日施行 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について」。 ↩ ↩2 ↩3
-
Distributed Proofreaders。「founded in 2000 by Charles Franks」「became an official PG site」(2002年)、「became a separate legal entity」(2006年)。完成点数は同サイトの表示で、2026年8月11日の値です。 ↩
-
青空文庫「2013年のそらもよう」の12月31日「富田さんを送った年だった」。生没年は作家別作品リスト:富田 倫生によります。 ↩
-
Michael Hart, The History and Philosophy of Project Gutenberg(1992年)。gutenberg.org。「Project Gutenberg began in 1971」「the Xerox Sigma V mainframe at the Materials Research Lab at the University of Illinois」。 ↩
-
青空文庫「青空文庫収録ファイルの取り扱い基準」。 ↩
-
Project Gutenberg, Permission, How To。米国基準についての引用も同じページです。 ↩
-
没年による区分と、判定できない作品を配信の対象から外す扱いは、yodaka の取り込み処理で実際に使っている判定です。区分の境目である1957年と1967年も、そこで定めた値です。 ↩
-
旧仮名の件数、注記の付いた作品数、外字、旧形式のファイル数は、yodaka の取り込み処理で2026年7月31日に全作品を通して測った値です。 ↩ ↩2 ↩3
-
RDF のファイル数と class 名の例は、yodaka の取り込み処理で測った値です。数えた冊数が項目ごとに違うのは、測った時期が違うためです。 ↩ ↩2
